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教育現場のエセ科学

今年の冬(2020年~2021年)は雪が多く、
日本海側の各地で災害も。

雪はもちろん氷の結晶。
この氷の結晶にまつわるトピックについて考えます。
それは‥

「水が人の言葉を理解し記憶し結晶化に反映する」
というもの。

具体的には、故江本勝氏がかつて出版した本。
様々な「水の結晶」の写真が載っています。
その主張は、というと‥

「ありがとう」、「好き」などのような
ポジティブなキーワードを書いた紙を水の入った容器に貼り、
それからその水を凍らせると、
某乳製品メーカーのロゴのような
対称性の高い六角形のきれいな結晶、

「ばかやろう」、「嫌い」のような
ネガティブなキーワードを書いた紙では
きたない結晶が生じるかもしくは結晶ができない、と。

これは事実でしょうか?

いやそれ以前に、
科学的な考察と言えるでしょうか?

教育に「活かされる」水の言語理解力

実際過去に多くの学校の授業で、
この驚くべき「水の言語理解力」が、
教材として主に道徳の時間で使われました。
例えばこんな感じで‥

  1. 「きれいな」結晶の写真を見せる
  2. 「汚い」結晶の写真を見せる
  3. 前者は「ありがとう」、後者は「ばかやろう」
    と書いた紙を見せて凍らせたことを伝える
  4. 人間の身体の6~7割が水だと伝える
  5. 言葉は相手の身体に影響を与える
  6. 「良い言葉」を使いましょう
    「悪い言葉」を使うのはやめましょう

道徳教育への応用の問題点

審美の問題を道徳に結びつけるのが問題なのは
明らかでしょう。

あるものを美しいと感じるか醜いと感じるか、
それは優れて個人の感覚の問題。

主観的な判断が個人的な好みの問題を越えて
善悪と直に結びつけるのは、
筋違いというにとどまらず、危険ですらあります。
それは様々な形態の差別につながるから。

江本氏の本には、
クラシック音楽を聞かせた水からは
きれいな結晶が得られ、
ヘビメタの音楽からは
汚い結晶が得られた、との記述も。

美術や音楽の芸術性・独創性は
作り手・受け手双方の
多義的解釈・多様な感性が根底にあるものであり、
美しいと主観に訴える見た目、
整ったように見える外形、
対称性の高さが一律に「正義」ではないのです。

江本氏の結晶の実際

「言葉を紙に書いて水に見せ、
凍らせたら結晶がきれいだったり汚かったり」
の、一般的に思われている状況はこんな感じでしょう。

でもこれ、江本氏の本を詳しく読むと
それほど単純ではありません。

シャーレを50個ほど用意し、
それぞれにスポイトで水を数滴たらします。
そしてマイナス20度の冷凍庫で3時間ほど冷やします。

シャーレの水滴

シャーレの中の水滴は
表面張力で盛り上がった形になりますが、
凍ると体積が大きくなるため
中心部がちょっと突き出たようになります。

横から見たシャーレの水滴

次にこれらのシャーレをマイナス5度の低温庫に入れると、
氷は最初マイナス20度だったので、
その温度は徐々に上がっていきます。

その過程で氷の盛り上がった部分にできる結晶を
200倍の倍率で顕微鏡撮影します。

結晶の形態はさまざま

実は氷の結晶の形状は実に多様であり、
江本氏の本に出てくるような樹枝状の六角形は
そのごく一部。

どのような条件でどのようにして
様々な形の結晶ができるのかについては
研究が進んでいます。

氷晶の温度依存性
(北海道大学低温科学研究所)※赤丸は筆者

それによると樹枝状の六角形結晶は
マイナス15度で形成されます。

氷の温度がマイナス20度から徐々に上がって行って、
マイナス15度を通過するタイミングでできる
この形状の結晶だけを選択的に撮影しているのです。

この「選択的に」というのがミソ。

撮影できるのは、
上昇する温度がマイナス15度付近を通過する
2分間程度。

しかも結晶ができるのはシャーレ50個中
数個から最大でも30個と言います。

撮影者の思惑でどうにでもなる結晶

まず、なぜ「マイナス15度」なのか?

前掲の北大の資料を見ればわかる通り、
結晶の形成そのものは、
氷点下の広範囲な温度領域で起こります。

しかしその形状は、温度によって様々。
その中で特に、
多くの人にとって見た目が「きれい」で印象深いのが
六角形の樹枝状の結晶ではないでしょうか?

そもそも、実験では50個のサンプルが使用されています。
思い出してください。
この内結晶ができるのが数個から最大でも30個。

‥ということは、
「ありがとう」だろうが「ばかやろう」だろうが、
結晶はできたりできなかったり。

結晶が形成されたサンプル数個の中でも、
出来具合は様々。
その中で都合の良いもの、すなわち
「ありがとう」の時は整った形状の結晶を、
「ばかやろう」の時は見た目の良くない結晶を
ピックアップして撮影する、
ということが可能なのです。

もし江本氏が言うような言葉の効果があると言うなら、
結晶の形状の「良し悪し」をきちんと定義した上で、
結果を統計的に扱わなければならないのです。

結晶化したのは空気中の水分子

もう一つの問題は、
そもそも撮影された結晶の元となる水は
言葉を見せられた水ではないという事実。

それはシャーレの周囲の空気に含まれている
水蒸気なのです。

この意味でも、
結晶の形状に言葉の影響があるはずはないのです。

いくら結論が正しくとも

このようにこの結晶写真には少なく見積もっても、

  1. 結晶成長のメカニズム上の問題
  2. 実験結果の見せ方の問題

が内在しているのでした。

「ありがとう」などのきれいな言葉を使いなさい。
「ばかやろう」などという汚い言葉を使ってはいけない。

これらの結論自体は問題ないのかもしれませんが、

事実と異なることを事実であるかのように
教育現場で伝えることは、やはり問題です。

子供たちがその後成長して
間違いに気づいた時、
先生にウソを教えられたという事実に
直面せざるを得ません。

すると他にもウソがあったかもしれないし、
他の先生に対する信頼も大きく揺らぐでしょう。
その影響は計り知れません。

結論が正しいとしても、
そこに至る論考が誤っているとするならば
本当の道徳心が伝わったとは言えません。

そもそも、繰り返しになりますが、
見た目の整い方、主観的美的感覚が
善悪にダイレクトに結びつくはずがないのです。

何が「良く」て、何が「悪い」のか、
その判断は本質的に難しくかつ重要な問題です。

この困難な課題に対し、
子供たちがこれから生きていくベースとなる
考え方、心構え、他者・社会との接し方を
養う初等教育において、
自分の頭で時間をかけて考えることをせず、
結晶の審美のような単純な数直線上で
安易に割りふる習慣を植え付けることは、
大問題だと言わざるを得ません。

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