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数字=科学?その切り出し方に潜む魔力

数字と脳

知人でもある国立研究所の遺伝子研究の専門家K氏が2021年8月20日にツイートした内容。

川上ツイートワクチン効果なしに見える数字

ワクチン接種数が増えたのに、
同じ期間で感染者と死者数も増えているというデータで、
「ワクチン、効果あるのか?」と疑問を呈する。

氏はワクチン否定派ではないが、
コロナウィルスに対しては(どこかの政府のように)
ワクチン一辺倒ではなく、
マスク着用や蜜回避、検査拡充、
病床確保、必要なら補償を伴う休業要請や都市封鎖等、
あらゆる可能な施策を重層的に行うことを主張している。

神経科学・細胞生物学の専門家であり、
コロナに関するツイートも多く注目度が高い。

であるならばなおさら、
たとえ発信内容が正しくても、
数字の取り扱いは慎重にして欲しいところです。

福島原発事故後、アメリカで乳幼児死亡率急上昇!?

アメリカのJ.Sherman医師と疫学者J.Mangano氏らは、
米国北西部の8市
(アイダホ州ボイシ、
ワシントン州シアトル、
オレゴン州ポートランド、
そしてカリフォルニア州のサンタクルス、
サクラメント、
サンフランシスコ、
サンノゼ・バークレー)において、

1歳未満の子供の死亡数に関する
2011年のデータを報告しました

(ネット上では削除済み)。

3月19日を最後とする4週間
死亡数37(平均9.25/週)

5月28日を最後とする10週間
死亡数125(平均12.50/週)

彼女らによればこれは、
福島第一原発
事故前4週間と比較して
事故後10週間では乳幼児死亡率が
35%増大しているとする
統計的に有意なデータである、とのこと。

これは果たして本当か?

妙に納得できちゃう、しかし‥

具体的に数字で示されると、
それだけで何となくしっかりした
科学的データのように見えます。

それを主張しているのも専門家だし、
なるほどな、と。

原発事故と言えば、
現代に生きる我々日本人にある、
消したくても消えない強烈なインパクト。

広範囲にわたる放射能汚染、
それにより故郷を奪われ仮設住宅住まいを強いられた
地域住民、
残され荒れ果てた土地、そして
困難な汚染処理と廃炉作業にかかわる多くの人々の苦悩。

そんなこんなで
放射能物質が風に乗り海を渡り、
北米大陸にも重大な人的被害を与えたと。

そう言われれば
「さもありなん」
とも思えてしまう。

データの見せ方に注意

でもちょっと考えると不思議な気もします。

「なぜこれらの8都市をピックアップしたのか?」
「データ取得期間が、事故前では4週間なのに対し
事故後では10週間なのはなぜ?」

実は、そこにはちゃんと【理由】があります。
主張する者に都合の良い、
という意味での【理由】が‥

元データとなる米疾病予防管理センター(CDC)発表
罹患死亡率週報による、
これら8都市での乳幼児死亡数は以下のようになります。

原発事故前後での乳幼児死亡数データ

縦軸はこれら8都市での乳幼児死亡者数
横軸は2011年1月9日から6月12日までの時間軸、
ちょうど真ん中辺りが福島原発事故に当たります。

Excelによって描かれた、
全体的な傾向を示す最適合線(青い線)は
増加どころかむしろ、
わずかながら減少傾向(!)を示す。

それに対しSherman氏らは、
事故前の4つの点(緑色の点)と
事故後の10個の点(赤い点)を使用している。

どうです?
緑色と赤の点だけを比べれば、
赤い点の方が緑より上側に分布してる、
つまり事故後に増大しているように見える!

そのことが全体的な傾向を反映していない
ことは明らかですね。

特に、1月と2月のデータを排除したところに、
恣意性を感じます。
そうすることにより、
「事故により死亡率が増大した」との主張に沿う
データに見せているのです。

取得データが、事故後が10週間分なのに対し
事故前が4週間分だけだった【理由】、
実はこういうからくりなのでした。

「相関」と「因果」は違う

がん死亡率年齢調整前

(出典:国立がん研究センターがん情報サービス
「がん統計」(厚生労働省人口動態統計))

この表は日本における
人口10万人当たりのがん死亡者数の年次推移。

一見して、明らかに年を追うごとに増大しています。
日本社会でいったい何が起こっているのか!?

ある人は水道水の質の悪化と言い、
またある人は大気汚染と言うかもしれません。
ケムトレイル的な陰謀論を唱える人もいるのかも。

こんな「科学的データ」見せられてそんなこと言われたら、
中には言われるままに、
高額な浄水器や空気清浄機に手を出したり、
怪しい宗教団体や自己啓発団体に
入ってしまう人もいるのでしょう。

こういう単調増加(もしくは減少)するグラフに
別の要因を結びつけて、
さも両者に因果関係があるかのように
不安を煽る、
これは悪徳商法でよくある論法。

例えばですよ。
上のグラフと同期間(1958~2019年)に、
一世帯あたりの自動車保有台数も
単調増加しているとします。
(実際には近年は微減しているようですが、
ここは例えとして)。

でもさすがに「車を持つとがんになる」
とは思いませんよね?

この場合、
車の所有率とがんの死亡率の間に
「相関」はあるけれども
「因果」は無いのです。

これほど間違いが明らかでない事例
(水道水の悪化とか)の場合には、
信じやすいので注意が必要。

でも冷静になれば、
がんの発生率を左右するファクターで、
すぐ思いつくものがありますよね。
そう、年齢。

こういうデータを見る時は、
年齢調整といって、
ある基準となる年を決め、
その年と同じ年齢構成比になるように
各年次を調整し直したデータを見なければなりません。

で、年齢調整した後のデータがコチラ。

がん死亡率年齢調整後

(出典:同上)

どうです?全く様相が異なりますね。
このデータ見て、
「水道水が悪いから浄水器買わなきゃ」
とはなりませんよね?
さっきの単調増加は高齢化の影響なのでした。

相関を持つデータの間に絡む
様々な要因をえぐっていく。

このことを怠り
短絡的に因果を見出してしまうと、
思わぬミスリードの憂き目に
あってしまうかもしれない、
ということは胸に刻んでもよさそうです。

独自の説得力をもつ数字の見せ方は要注意

K氏は細胞生物学、発生遺伝学の著名な専門家であり、
SNS発信も積極的に行っています。

前述のようにコロナに関しては重層的な施策を主張。
例え主張は正しくとも、
論拠となる数字の見せ方、論法の部分もやはり
科学者然として欲しい。

数字の恣意的な切り出し方は
似非科学の常とう手段だからです。

「相関」と「因果」の違いの明確化、
科学的議論には特に求められます。

乳幼児死亡率データ:片瀬久美子ブログ”warbler’s diary”

元データ:米疾病予防管理センター罹患死亡率週報
https://www.cdc.gov/mmwr/index2015.html

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