人はなぜ疑似科学を信じてしまうのか。
近年の研究で、進化の過程で人類が培った1つの性向が関わっていることが分かりました。
チンパンジーにできて人間にできないこと
米航空医学研究所のドナルド・ファラーがチンパンジーを使ってした実験。
図1のように、4つのボタンが横一列に並んでいる画像を見せていきます。
4つのうちのいずれか1つが「当たり」。
それを押すとエサが出ますが一発勝負ではなく、エサが出るまで何度でもリトライができることとします。
そしてこれら4つのボタンの上部には図形が1つ表示されています。
Aの時の当たりボタンは右から2つ目の◎。Bでは左から2つ目の▽、Cでは一番右の◇が当たり。
もうお分かりですね?上部に表示されている図形と同じ図柄のボタンが「当たり」です。
このようなワークを合計24パターン行いますが、それらは4つのボタンの組み合わせや配置が全て異なっており、そしてどれも上部に表示された図形と同じ図柄のボタンが「当たり」となっています。
さて、24回のワークが終わったあと、チンパンジーに図2のような問題を見せます。
あなたならどのボタンを選びますか?
たぶん左から2番目の●のボタンではないでしょうか?
でもチンパンジーは違うんです。
彼らは一番右の◇を押します。
なぜって?
この4ボタン、よく見ると24個のパターンの内の3番目(C)と同じですよね。
チンパンジーは24個のパターンのそれぞれの当たりボタンを「丸暗記」するのです!
人は法則性を見出すのが得意
人間はこのようなパターン丸暗記が苦手。
その代わり、「上部に表示される図形が当たりである」という法則性の認識能力が高いのです。
自然界に起こる現象についても、人間はその中に法則性を探し求めます。
もし法則が分かれば、それを利用し生活に活かすことができるかも知れません。
例えば「ピンクのグラデーションのかかった、白い花びら5枚からなる子供の手の平くらいの花が咲き終わると、甘くておいしい赤い実がなる」といった具合。
この法則を知ったおかげで、人はリンゴの果実にありつくことができ、飢え死にするリスクを減らすことができます。
そしてこの、法則性を見出す人間の傾向が、実は疑似科学の発生要因ともなるのです。
例えば占星術。
天体の運行は日単位でも年単位でも周期性がありますね。
それに気づいた古代人は、次にそれと地上での出来事とを結びつけた。
いや、「結びつけたかった」。
それは災いの予知にもつながるので。
天球内での星の位置関係と運勢との間の法則性‥
イヤでも見出してしまうんでしょうね、人間の特質として(笑)。
例えば、木星がやぎ座にある時に大地震が起こったとします。
それはたまたまかも知れないのに、大地震という社会的重大事のインパクトからそれと木星の位置とを関連付けてしまう。
これは確証バイアスの一種、「関連性の錯誤」。
四季の移り変わりも星の見え方も、太陽の周りでの地球の公転によります。
雨季の川の氾濫とその時見えやすい星座を関連付けさせ、例えば「みずがめ座」ができたりなど。
星座には神様多いですものね。
このようなことの蓄積で、星の運航と地上での出来事の関連が「体系化」されました。
手間暇かかるが欠かせない科学的考察のステップ
このような因果関係を証明するためには、何らかの統計的考察が行われねばなりません。
そのためには多数のサンプルを用いて検証する必要があります。
占い師の中には「これは統計学だ」と科学性を強調する人もいますが、少なくとも占星術に関しては、どのような学術的検討に耐えうる統計調査が行われたのか明瞭ではありません。
おそらくなされてないのでしょう。
対して科学研究はどうか?
自然現象を観測し、そこに見出されるパターンから法則性を導き出しそれを説明する理論を構築する。
この理論はこの段階ではまだ仮説であり、実験や観測を繰り返し「自然界にお伺いを立てることにより」それが正しいかどうかを確かめていく。
この検証過程は決して秘密裏に行われるのではなく、実験や観察の条件や手段に関する情報が誰でも追試可能ほど事細かに開示されます。
そのような検証過程を経て、あまたの仮説が誤りとして棄却される中で、現象をよく説明する理論が「正しい」と認められ、定説となって教科書に載ったりします。
しかしこれで終わりではない。
その定説がどの程度正しいのか、その適用限界を見定める検証の旅が続きます。
このような、仮説の提示とその検証というサイクルの繰り返しを経て、科学は進展してきました。
秘匿性はオカルトの骨頂
星の配置が人生の浮沈や世情に影響するというのは、しっかりした統計がない上にそのメカニズムもはっきりしない、という意味で現代科学の知見とは相反します。
であるにもかかわらずその「理論」は本当に正しいのかについての科学的究明の努力はなされず、「正しいことだけは確かだよ」と。
正当性の吟味がアンタッチャブルで、よって立つ根本原理は闇の中、これは典型的なオカルトの姿と言わざるを得ません。
新たに得られた科学的知見によって古くからの教義に解釈の変更が多少加えられることはあっても、根本原理は秘匿されているのでその正しさだけは不問であり改訂されない。
科学発展のステップとの違いは明瞭ですね。
宗教がもたらす世界観が人生を豊かにする側面はあると思うのです。
しかしあなたに道理を説くその人がもし「科学」を口にし、科学性をウリにするのであれば(白衣や数式などのアイテム、「量子力学」・「△△研究所」・「○○学会発表」とかのうたい文句、実験風景の写真等々)、科学とそうでないものの考え方の違いについては十分留意して欲しい。
さもないと、相手の思うとおりに時間・お金を奪われ、破滅の人生を歩むことになるかも知れませんよ。
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